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Harry’s が$122.5M(約125億円)調達
髭剃り業界で熱い熱い話題。まだ10か月のアメリカのスタートアップ「Harry’s」がTiger Globalを筆頭とする投資会社から$122.5M(約125億円)の調達に成功しました。
「10-Month-Old Harry’s Lands $122.5M, Buys 93-Year-Old Factory To Take On Shaving Heavyweights, Gillette And Schick」
参照:TechCrunch
私もそうですが、なぜ髭剃りが!と驚いた方も多いと思います。いろいろ調べてみると、なぜそれだけの資金調達に成功できのかという理由がわかりましたので、ご紹介します。
今、アメリカの髭剃り業界が熱い

なぜ髭剃りがそんなに熱いのか、120億円以上の資金調達ができる価値があったのか、を見ていきます。
アメリカではひげ剃りを購入する場合に、使い捨ての廉価品(5ドル以下)とブランド物の高級品(100ドル以上)が多くを占めています。
これらの商品は多くの男性が、常に使い続ける必要があります。使い捨てであっても、高級品であっても、商品自体、または替刃を購入し続けます。
そのため全世界どこでも必要であり、その市場は末端まで掘っていくと1280億ドル(約13兆円)にのぼるとも言われています。
髭剃りごとき、などとはけっして言えません。もちろん、このような大きな市場であるため、大手が存在します。
世界的にも有名な大手のシェアは以下の通り。
・ジレット:66%
・シック:12.5%
・ビック:5.2%
つまり、髭剃り市場は大手3社で8割以上を締め、寡占状態なわけです。
今回は、この巨大市場の寡占状態に風穴を開けることができると「Harry’s」に期待が集まったため、$122.5M(約125億円)もの投資を受けることができたということになります。
髭剃りスタートアップ先駆者 Dollar Shave Club

まずは、「Harry’s」を説明する前に、髭剃りスタートアップ先駆者である「Dollar Shave Club」を紹介したほうが良いでしょう。
「Dollar Shave Club」は「髭剃り」をECサイトで展開する企業です。そこでは、髭剃りハンドルと替刃を月3ドル、6ドル、9ドルのサブスクリプション(定期購入)方式により販売しています。
大手が替刃に15~20ドル必要な市場に、髭剃りハンドルも込みで格安なプランを提供したのです。
これが成功し、「Dollar Shave Club」は2012年10月にシリーズAにおいて、980万ドル(約10億円)を調達することができました。
Dollar Shave Clubの2つの特徴
「Dollar Shave Club」が注目されるに至ったきっかけは2つあります。
Dollar Shave Clubの特徴1.「髭剃り」をサブスクリプション方式で提供するビジネスモデル
髭剃りは常に購入が必要な商品です。これまでは、8割以上を占める大手3社の商品を購入するということが、当たり前でした。
なぜ髭剃りがサブスクリプション方式に向いているのか、それを「Dollar Shave Club」は、「市場が大きく、定期的に購入する必要があり、買い忘れしやすい商品特性を持っている」と定義しました。
確かに、髭剃りは頻繁に購入が必要な商品です。ただしこれまでは、買おうと思った時に高すぎる大手の商品を購入するしかありませんでした。安価で、質が良い髭剃りハンドルと替刃を定期的に届けてくれるのであれば買い忘れはありませんし、替刃の15~20ドルに「うっ」とすることもありません。
Dollar Shave Clubの特徴2.動画マーケティングを使ったエンターテイメント性を重視

「Dollar Shave Club」は、自社を知ってもらうこと、髭剃り商品を定期購入することの有用性、をコミカルな動画で世の中に知らしめました。
その動画「Our Blades are F***Ing Great」は、CEOのMichael Dubinも出演し、すでに1,300万回以上再生されていて、シリーズ化して欲しいとの要望も多いそうです。
「Our Blades are F***Ing Great:Dollar Shave Club」
こちらは別商品「お尻拭き」の動画
「Our Blades are F***Ing Great:Dollar Shave Club」
Harry’sが120億円を調達できた3つの理由

こうして、「Dollar Shave Club」の成功もあり、アメリカでは「髭剃り」、「サブスクリプション方式」、「動画マーケティング」のいずれかの要素を取り入れたスタートアップが爆発的に増えました。
まさに、雨後の筍状態です。
そのような中で、なぜ今回「Harry’s」は$122.5M(125億円)を調達できたのでしょうか。
Harry’sが120億円を調達できた理由1.実績ある創設者による事業
1つめの理由は、「Harry’s」の共同創設者の1人が大きな実績を持っていたからです。
「Harry’s」の共同創設者の1人、Jeff Raider氏は、アイウェアのECサイト「Warby Parker」の共同創設者の1人でもあります。
「Warby Parker」に関しては、こちらの記事を参照して下さい。
参考:
メガネの海外ECサイト「Warby Parker」に学ぶ、ファンによるクチコミが影響力を持つ理由
Harry’sが120億円を調達できた理由2.商品への大きなこだわり
2つ目の理由は、「Harry’s」の商品が大きなこだわりを持って作られているからです。
髭剃りのハンドル部分は、エルゴノミクス(人間工学)で設計され、亜鉛合金にポリマーでコーティングを施した「トルーマン」とアルミニウム合金製の「ウィンストン」の2種類を用意しています。
前者が10ドル、後者が20ドルとなっていて、確かに「Dollar Shave Club」よりは高めの設定にはなっていますが、見た目も美しく、欲しいと思ってしまいます。
さらに、替刃はドイツで世界最高品質の刃をつくるメーカーと提携し、シェービングクリームも独自開発をしています。
とことんこだわりぬいた商品、まさにブランド高級品と言っても良いような商品をサブスクリプション方式にすることで、比較的低価格にしています。
Harry’sが120億円を調達できた理由3.戦略的なブランディング
3つ目の理由は、「Harry’s」が新たなブランドを確立するための戦略をとっているからです。
前述した通り、髭剃りハンドルにしても、替刃にしても、シェービングクリームにしても、「Dollar Shave Club」よりは高めの価格設定にしています。
また、セット商品も販売しており、プレゼントとしても利用できるような作りになっています。
もちろん、「Dollar Shave Club」と同様、「Harry’s」も「これまでの高い髭剃り業界を変える!」という思いをもっていますので、サブスクリプション方式を取って、ユーザーが安価で購入できる仕組みを整えています。
ただし、「Dollar Shave Club」と違うところは、「Harry’s」のサブスクリプション方式は「替刃」と「シェービングクリーム」に限っている、ということです。
替刃は、4枚セットが最低注文ですが、1枚あたりの値段は2ドル(200円)で、大手と比べると半分の価格設定となっています。
髭剃りハンドルはこだわり抜いた良い商品を使ってもらい、替刃は業務提携により品質の良い物をサブスクリプション方式で安く提供することで、髭剃り体験に高級感を演出することが、「Harry’s」のブランディングということになります。
また、ブランディングの1つとして、ニューヨークに「Harry’s Corner Shop」を作りました。

「Harry’s Corner Shop」は「Harry’s」の商品を使って散髪と顔剃りができる美容院です。
こちらも「Harry’s」の商品を使って良い体験をしてもらうことに重点を置いており、この一連の流れが、これまでの髭剃り業界を変える動きのように見られているわけです。
今後もHarry’sのような特化型ECに期待
まず、「Dollar Shave Club」が髭剃りの市場に切り込み、大手の寡占を崩そうとし、次に「Harry’s」が髭剃りの体験そのものを変えることで、市場に風穴を開けようとしています。
どちらも、ECサイトであり、サブスクリプション方式ですが、「Dollar Shave Club」は、価格とエンターテインメント性を売りにし、「Harry’s」は高級感と体験を売りにしています。
特筆すべきは、どちらも「これまでの常識を覆すことで、一見レッドオーシャンのように見える寡占市場に新しい流れを起こしている」ということです。
ロコンドしかり、JINSしかり、日本でも髭剃り特化ECサイトができ上がるかもしれません。まだまだアイデア次第で面白いことができそうです。
カズワタベさんのように、早くから注目している人もいますしね。
ドイツで世界最高品質の刃をつくるメーカーとパートナーシップを結んだ上で、最適なハンドルやシェービングクリームを開発したそうです。ウェブサイトもプロダクトも洗練されたデザインで素敵です。
大手ブランドのジレットやシックと較べて替刃が安いのも特徴で、1個あたり3ドル程度の他社に対し、Harry’sは1.5〜2ドル。日常的に使うものだからこそ嬉しい金額ですね。品質も良さそうですし、ぜひ使ってみたいものです。