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新商品・新サービスと芸人の関係性
ほとんどのお笑い芸人が、ビートたけしさん、明石家さんまさん、志村けんさんなどの大御所にまで上り詰めることはありません。
吉本興業には6000人以上のタレントが所属していますが、サイトに掲載されているのは、お笑い芸人802組、文化人44組、俳優・声優・タレント96組、スポーツ選手55組、アーティスト22組だけです。
これだけ芸人がいると、嘲笑の対象になる一発屋芸人になることさえ大変なことがよくわかります。
同じように、市場には毎年多くの革新的商品が投入されますが、売れるのはごく一部。新商品すべてが製品ライフサイクルの流れをたどるわけはなく、一度もブレイクせずに消える商品ばかりです。
もちろん、スタートダッシュに成功した商品も、「話題になったあのアプリどこ行った?」「みんな使ってたのにいつの間にか消えたね。」という商品は枚挙に暇がありません。
まったく世の中に出られない芸人、一発屋、若手で売れた・中堅まで行ったのにいつの間にかいなくなった芸人など、何だか商品市場と同じように感じます。
このように新商品が市場に広まる過程で溝(クラック)に消えてしまう現象を捉えて「キャズム理論」と言います。
- キャズム理論・クラック・キャズムとは何か
- なぜ商品にはキャズムがあるのか
- どうすればキャズムを超えられるのか
それでは早速見ていきましょう。
キャズム理論とは
キャズム理論とは、市場に投入された新商品が一部の認知から成長期に入る過程で、溝(クラック)に落ちて市場から消えてしまう現象に対して、溝を乗り越えるアプローチを示した理論のことです。
キャズム理論は、1991年にマーケティングコンサルタントのジェフリー・A・ムーア(Geoffrey Alexander Moore)が著書「キャズム(Crossing the Chasm)」の中で提唱しています。
クラックとは
クラック(crack)とはひび割れの意味で、イノベーター理論における5階層(イノベーター、アーリーアダプター、アーリーマジョリティ、レイトマジョリティ、ラガード)の境目を指します。
つまり、階層が変わる転換点には、必ずクラック(ひび割れ)があるということです。

Diffusion of Innovation Theoryを改変
イノベーター理論で説明した通り、5階層にはそれぞれ特徴があり、マーケティング戦略が違います。そのため、クラックは商品が市場に普及する過程のハードルになります。
キャズムとは
キャズム(chasm)とは裂け目の意味で、イノベーター理論のアーリーアダプターとアーリーマジョリティの間にあるもっとも大きなクラックのことです。
キャズムは、商品が市場に普及する過程で、もっとも大きなハードルになります。

Diffusion of Innovation Theoryを改変
市場にキャズムが生まれる理由
アーリーアダプターとアーリーマジョリティの間にキャズムがあるということは、16%の市場導入期(イノベーター+アーリーアダプター)から84%の市場成熟期(アーリーマジョリティ+レイトマジョリティ+ラガード)に移ることが、もっとも難しいとも言い換えられます。
そのため、市場導入期と市場成熟期は、マーケティング戦略をガラッと変えなければいけません。
なぜ市場にキャズムが生まれるかというと、市場導入期と市場成熟期では、消費者(市場)だけでなく生産者(企業)の思考もまったく異なるからです。
キャズム前後の消費者(市場)の思考
キャズム前後では、消費者(市場)の考え方がまったく違います。
キャズム!
市場成熟期|安定してこなれたもの、必要性を追求する慎重さがある
キャズム前後の生産者(企業)の思考
キャズム前後では、生産者(企業)の考え方がまったく違います。
キャズム!
市場成熟期|生産性を高めて、安定的で揺るぎない地盤を作りたい
どうすればキャズムを超えられるのか
キャズムを超えるためには、市場導入期と市場成熟期で、商品の機能や販促方法、価格、顧客に伝えるメッセージなどを変えなければいけません。
たとえば、携帯電話はわたしが大学生のときにキャズムを超えて、爆発的に市場に浸透した商品です。
当時、全国に携帯電話販売店(代理店)ができ、携帯電話を販売するために学生アルバイトを使って、ねずみ講のように加入者を増やしていきました(表現は時効)。
携帯電話がキャズムを超えた要因は、一気に小型化して価格を下げたこと、友達と連絡を取りたい大学生をターゲットにしたこと、そして大学生に売らせたことです。
それによって、「携帯持ってないとやばいって。」という口コミを一気に広げることに成功したわけです。
- 小型化してポケットに入るサイズにした
- 本体価格と通話価格を下げた
- 大学生に必要なものだと認識させた
- 個人間の販売網(口コミ)を作った
このように携帯電話は、機能面、価格面、需要面、販売面を変革し、ビジネスマンが持つ高級アイテムから大学生が持つの手軽なアイテムに変化しました。
商品と企業はクラックを超えるために変化が必要
市場に新しい商品、革新的なサービスを普及させるには、商品の何を変えて、市場に何をもたらしたいかを考えなければいけません。
企業は、商品が普及する未来を想像せずに、「何となく便利だから。」という理由で市場に商品を投入しても、キャズムを超えられません。それどころか、イノベーターとアーリーアダプターの間のクラックにさえつまづくでしょう。
ただし、企業が未来を想像しても、一足飛びで商品が普及するわけではありません。
イノベーターやアーリーアダプターのニーズの変化に合わせて、商品と企業も変化をして、1つずつクラックとキャズムを超えるから普及していくのです。
そう言えば、大御所芸人と呼ばれる人たちも、若手、中堅、ベテラン、大御所と立ち位置が変化する中で、役割や人の笑わせ方が変化しているように感じます。
大御所芸人は、たいてい好感度が高く、テレビ番組を見ていても何となく安心感がありますよね。
きっと、尖った役回りから、どこかの段階でキャズムを超えて、大衆に受け入れられように芸や自分自身の心情を変化させてきた結果なのでしょう。