WEARがO2Oの転換点?商業施設よりZOZOを選んだブランドたち

スタートトゥデイ

スタートトゥデイが開始した新サービスWEAR

2013年10月31日にスタートトゥデイが開始した新サービスWEAR(ウェア)は、ファッション業界とその購買行動に大きな影響を与えるアプリとして、話題を呼んでいます。

ZOZOTOWN(ゾゾタウン)を運営するスタートトゥデイだからこそ、WEARがファッション業界に与えた衝撃は大きかったのですが、その要素と今後予測できることを見て行きたいと思います。

今回のお話しは、以下の11月2日付の東洋経済の記事内容が非常に参考になりました。面白かったのでみなさんもぜひ読んでみてください。

参考:
スタートトゥデイが放つ「WEAR」の衝撃 | 企業戦略 | 東洋経済オンライン | 新世代リーダーのためのビジネスサイト

WEAR(ウェア)とは?

まず、WEARとはどのようなアプリなのでしょう。

WEARはバーコードスキャン機能などを備えた、ファッション特化型のサービスだ。

専用のアプリをインストールしたスマートフォンなどで、店頭に掲示された「チェックインバーコード」に次いで商品のバーコードを撮影すると、その商品の価格や色などの詳細情報やコーディネートの例などを見ることができる。店頭で下見をし、買わずに家に帰ってじっくり考え、気に入ったらゾゾタウンなどのネット通販サイトで好きなときに買える。

参考:
スタートトゥデイが放つ「WEAR」の衝撃 | 企業戦略 | 東洋経済オンライン | 新世代リーダーのためのビジネスサイト

上記だけではわかりにくいので、WEARの特徴的な5つの機能をご紹介します。

WEARの特徴1.コーディネートレシピ機能

ユーザーが投稿したコーディネート写真を保存できます。コーディネートに使われているアイテムがどのブランドのアイテムなのかも確認できます。

また、好きなブランド名やカテゴリ、カラー、シチュエーションなどさまざまなキーワードからコーディネートやアイテムを探すことができます。

WEARの特徴2.マイクローゼット機能

購入したアイテムを(手動で)マイクローゼットに登録して、アイテム管理をすることが可能です。登録したアイテムを使ったコーディネートの保存や閲覧ができます。

また、ZOZOTOWNと連携しておけば、ZOZOTOWNで購入したアイテムは自動でマイクローゼットに保管されます。

WEARの特徴3.バーコードスキャン機能

wear_バーコードスキャン

ショップでアイテムに付いているタグのバーコードをスキャンすると、アイテムの詳細情報の閲覧、アイテムの保存、そのアイテムを使ったコーディネートを見ることができます。

保存したアイテムは、後でZOZOTOWNや提携しているブランドであれば、そのオフィシャルECサイトから購入することができます。

WEARの特徴4.SNS連携機能

そしてご多分に漏れず、SNSとの連携は欠かせません。見せたい、見られたい、共感して欲しいという欲求が強いファッション業界においては、上記の機能をより有効に需要に繋げてくれます。

WEARの特徴5.ECサイト連携機能

WEARに登録されているアイテムは、ZOZO、または提携ショップであればECサイトにリンクされています。

気に入ったアイテムをすぐに購入することが可能です。


WEAR」のコンセプト動画がこちら。

アパレル業界でのZOZOの影響力は?

次に、アパレル業界でのスタートトゥデイの影響力を見てみます。

アパレル業界市場の売上割合

アパレル業界の売上高は2012年度で9.2兆円あります。

そのうち、2012年のEC市場は2兆3575億円です。25%がオンラインでの売上ということになります。

そのEC市場で一番大きな影響力を持っているのはZOZOTOWNです。

「衣料品」部門では、「ゾゾタウン」を運営するスタートトゥデイが独走している。
(中略)
年間購入者数は1年間で50万人以上増えて248万人に、売上高も期初の計画には届かなかったものの、350億円に拡大した。2位のユニクロ(206億円)、3位の丸井(180億円)の有店舗企業を大きく引き離すことになった。「ゾゾ」の販売総額を示す商品取扱高で見ると、959億円となっており、この数字はネットの売り場としては突出したものになっている。

参考:
通販新聞「衣料品はゾゾが独走 2012年度のネット販売市場の売上高は2兆3575億円

スタートトゥデイの売上高推移

次に、スタートトゥデイの売上高推移です。平成24年度の売上高は約350億円。アジア戦略の失敗はありましたが、おおむね好調に推移していることがわかります。

スタートトゥデイ売上推移

参考:
年収ラボ「スタートトゥデイの平均年収と業績推移

国内のスマホでのEC市場推移

さらに、国内のスマホでのEC市場推移です。

国内スマートフォン・コマース市場規模予測

2012年時点で8,450億円のスマホEC市場が、2015年には2.6兆円まで伸び、2012年のEC市場全体2兆3575億円を上回るという予測がされています。


アパレル業界全体の売上から見れば、スタートトゥデイの売上高は0.3%です。

これを影響力がないと考える人もいるでしょう。ただし、ECサイトの売上高だけで比べると、ユニクロの1.5倍もあります。

参考:
アパレルECサイト売上ランキング2011-2013年比較と業界展望

WEARが与えた衝撃とは?

このようにアパレル業界での影響力を確実に高めているスタートトゥデイがWEARで業界に与えた衝撃とは何でしょうか。

WEARの動画を見るとわかるんですが、最大のポイントはバーコードスキャン機能です。

この機能を使えば、ウィンドウショッピングで可愛いと思うものを見つけた時に、その場で衝動買いをしなくても、後でZOZOTOWN等で購入できてしまいます。

この機能が、ファッション業界に衝撃を与えています。

なぜWEARのバーコードスキャン機能が衝撃なのか?

バーコードスキャン機能は、商業施設などのブランドショップ(オフライン)で商品を確認し、ECサイト(オンライン)へ誘導して商品決済させることを可能にします。

つまり、ブランド店舗の売上をガッツリ奪う可能性がある機能です。

バーコードスキャンと聞くと、ショッピッ!を思い出す方もいるでしょう。

スマポを生み出したスポットライト代表取締役の柴田陽氏が2010年に作ったものが、ショッピッ!です。

これは、バーコードを読み取ってECサイトで価格を比較し、商品を購入できるスマートフォンアプリだったわけですが、このショッピッ!もオフラインからオンラインへ誘導する仕組みでした。

これを、ショールーミングと言います。

ショールーミング(showrooming)は、小売店で確認した商品をその場では買わず、ネット通販によって店頭より安い価格で購入すること。ネット通販では、従来型の小売店よりも安価な価格で商品を提供することが多い。これはネット通販の方が諸経費がかからずに済むためである。ショールーミングは、小売店にとって売上減につながるのみならず、店頭展示品が消費者によっていじり回されるという点でも店側に悪影響を及ぼす。

参考:
WiKipedia「ショールーミング

ショッピッ!も当時は多くの論議がありました。

その後、スマポをつくることによって、オフラインからオンラインへユーザーを誘導するまったく逆のアプリを作り出し、スマッシュヒットしました。

O2Oはすでにメジャーワードですが、これにはオンからオフへ、オフからオンへの2種類の意味があります。

ところが現在のところ、オンラインからオフラインへ誘導することを前提としたサービスが(意図的に)注目を浴びる傾向があります。

O2Oの中でオンラインからオフラインへの誘導が多い理由

なぜオンラインからオフラインへのO2Oの方が多いのか?

これには3つの理由があります。

1.オフラインの市場のほうが圧倒的に大きいため

将来的にオンライン市場が拡大することは事実なのですが、今はまだオフライン市場の方が大きいため、オフライン誘導によるビジネスモデルの方が成り立ちやすいと言えます。

2.圧倒的な外部の圧力に合う可能性があるため

記事内には下記の内容が記されています。

今年6月にWEARが公表されて以来、駅ビルやショッピングセンターなどの商業施設は警戒感を露わにした。「リアルの店舗がショールームのように扱われては、商売上がったり」(関係者)という反発があるためだ。

商業施設はテナントとして入っている衣料品専門店の売り上げに応じた賃料収入が最大の収益源。WEARを介してゾゾタウンやブランドのECサイトで衣料品を購入された場合、商業施設の売上高は減少を免れない。そのため猛烈に反発しているのだ。

参考:
スタートトゥデイが放つ「WEAR」の衝撃 | 企業戦略 | 東洋経済オンライン | 新世代リーダーのためのビジネスサイト

このように、同じO2Oでも現在の市場に好意的に受け止められているのは、あくまでも「オンラインからオフラインへ」であって、店舗の実売上を伸ばすことに期待があるためと言えます。

3.ブランド内部の反発があるため

これまで拡大を続けてきた全国区のファッションブランドでは、内部の反発も予想されます。

全国に複数店舗を構えるブランドショップは、フランチャイズで運営されるケースも多いためです。

ショップの売上はフランチャイズオーナーの収入に反映します。彼らは、取り扱いブランドのECサイト展開さえも難色を示しており、WEARがショップ顧客を奪う可能性に良い顔をするわけがありません。

ステークホルダーがWEARに下した判断

このスタートトゥデイの動きに、対象となるファッションブランドはどのような動きを示したのでしょうか。

WEARによるアパレルブランドの動き

まず、業界の雄である「ユナイテッドアローズ」や「アーバンリサーチ」を始め、200以上のブランドがサービス開始当初からWEARに参画する動きを見せました。

彼らは、各機関が予測するオンライン市場の急拡大を見るにつけ、オフラインでの限界を見据え始めているのかもしれません。

商業施設への集客は、どれだけがんばったとしても今後減少していくことは確実です。

では、なぜこれまで圧倒的に強かった商業施設を半ば裏切って、現時点でスタートトゥデイにつくことを選択したのかです。

本音のところはわかりませんが、恐らくZOZOTOWNの将来像を見据えて「初めから参入しておくことのメリット」と天秤にかけた結果ではないかと推測します。どっちが勝ち馬なのか、ですね。

WEARによる商業施設の動き

商業施設は基本的にWEARには反対しています。

なぜなら、商業施設はテナント賃料をショップの売上に応じて決めている場合が多いためです。

各商業施設の対応は以下の通りです。

駅ビル大手のルミネは「WEAR」が発表された後、「館内での写真撮影は原則禁止」という文章を入居テナントに通達した。バーコードスキャン機能を利用させないように、暗にテナント側にプレッシャーをかけた形だ。

自社ECサイトを強化している百貨店の三越伊勢丹(三越伊勢丹ホールディングス)も店内でのWEAR使用を許可しない方針を示した。

参考:
スタートトゥデイが放つ「WEAR」の衝撃 | 企業戦略 | 東洋経済オンライン | 新世代リーダーのためのビジネスサイト

逆に、商業施設の中にも、WEARに協力的なところもありました。パルコです。

パルコが協力した理由は、パルコでWEARを使ったユーザーがZOZOTOWN等で商品を購入した場合、売り上げの数%の手数料を支払うという条件があったためだと言われています。

ただし、これも全面的というよりは、試験的な導入と位置付けられています。

スタートトゥデイがWEARを展開していくためには、今のところ商業施設の協力が必要になります。そのため前澤社長は、金銭的な面で柔軟に話し合う準備があると、話をしています。

WEARが目指すのはスマホ市場

今後、スタートトゥデイがWEARを使ってスマホ市場を取って行きたいことは間違いありません。それも圧倒的に。

ファッションコーディネート-WEAR

スタートトゥデイが考えることはこの2点でしょう。

・ZOZOTOWNに新規ユーザーを流し込み、流通を拡大させたい
・ZOZOTOWNをファッションブランドにとって唯一の商業プラットフォームにしたい

ZOZOTOWNは受託販売で成り立っており、販売手数料をファッションブランドから取得しています。

その手数料は売上対比で27.6%!となっており、さらに、>新規ブランド参入には手数料35%!+初期費用を求めています。

手数料はかなり高いですが、ZOZOTOWNで大きな売上を上げているファッションブランドも多く、彼らにとって、売上と知名度を上げるためには仕方がない状況です。

ファッション通販ZOZOTOWN

このように、ZOZOTOWNは高い収益率を誇るオンライン商業プラットフォームとしての位置を拡大しつつあります。そのため、スタートトゥデイのすべての施策がZOZOTOWNに集約されるはずです。

今後はWEARによって、さらにZOZOTOWNの影響力を強める動きを行っていくことになります。

そして、スタートトゥデイが考えることが現実になるなら、これまでのO2Oの流れが変わる可能性があります。

既存のオフライン商売に影響を受けることなく、オフラインからオンラインへの誘導を公然と行うため、オフラインとオンラインの立ち位置を逆転させる可能性がありえます。

追記:オンラインとオフラインのターニングポイント

この記事を書いて以降、WEARがO2Oを変えるかもしれないと思っていた機能の一つ「バーコードスキャン機能」が廃止されてしまいました。

参考:
ファッションアプリ「WEAR」、商品バーコードスキャン機能廃止 店舗側の懸念大きく

ZOZOTOWNをもってしても、オフラインを切り崩す壁はまだ厚かったようです。ただスタートトゥデイが、当初の思いを変えてしまったとは思えません。

やっぱり何年後かに振り返ってみると、オンラインとオフラインのあり方を語るターニングポイントはここだったね、となるような気がしています。

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